カインドフルな映画たち:『はじまりの日』

柴田あずさがお届けする、カインドフルなムービーセレクション。今回ご紹介する映画は、『健さん』、『エリカ38』の日比遊一監督の最新作『はじまりの日』。日本では珍しいミュージカル映画でもあるこの作品。名古屋を舞台に伝説のロックスターの再生と若き歌姫の誕生を描いた美しい物語となっています。現実から唐突に役者たちが歌い始めるのではなく、リアルな世界から徐々にファンタジーの世界へと我々を自然に導いてくれる所がこの作品の魅力でもあります。魂を揺さぶる歌声に出会えることは、間違いありません!

伝説のロッカーの再生と若き歌姫の誕生の物語

この映画は、伝説のロッカーの再生と若き歌姫の誕生の物語。観る人に希望を与える素晴らしい作品です。かつてロックスターとして一世を風靡した「男」はある事件がきっかけで、音楽を封印し、ビルの清掃会社で働きながら質素に暮らしています。仕事場とアパート生きるだけの日々。唯一心を許せる相手は会社の友人一人。その隣人が会社の同僚の「女」でした。しかし夜な夜な女と母親との激しいやり取りが男の部屋に響き渡ってきます。ある日、公園で一人口ずさむ女の歌声に大きく心を揺さぶられそれをきっかけに男の日々は、ゆっくりと動き出すのです。男は、女の才能を確信し、昔の同僚である音楽プロデューサーに掛け合い、<女>は次第にチャンスを掴んでいく。そして男もまた自分の歌が、他人の心に灯をともすことに気づかされる出来事が……

自らの人生と交差。元J Walkの中村耕一氏が見せる深みある演技に注目!

この映画を特別なものにしているのは、何といっても主人公の<男>を演じる元JAYWALKのボーカリスト/ギタリスト/作曲家の中村耕一氏の存在でしょう。映画のストーリーとまるで重なるような人生を歩んだ彼の深みある演技は、とても映画初主演とは思えないほど。「出演を決めるまで3回断った」という彼ですが、監督の熱い要望に答えこの役を演じることを決めたとか。ホントに素敵でしたー。

彼とならび主人公の<女>を演じるのは、2005年にデビューを果たしたした映画初出演のシンガー遥海。フィリピン人の母を持ち、日本語が苦手だったという彼女。苦労を乗り越えて夢を掴んだその人生もまた、ものがたりと交差します。ミュージカル「RENT」のミミ役も務めるなどその歌唱力、表現力が注目されていますが、希望を与えてくれる彼女の歌声はスクリーンからはみ出てくるようなパワーを放ち、そんなシーンを観ながら何度も鳥肌が立ち、震えてしまったほどです。二人の関係は、心を通じ合えることができなかったそれぞれの父と娘の代わりのような存在。

脇を固める役者陣も豪華で竹中直人、高岡早咲が壮絶なシーンをそして脇を固める山口智充、岡崎紗絵もインパクトのある演技を見せてくれます。

NYが活動拠点の日比監督が放つ、地元・名古屋への愛

この映画ではまた、日比監督の地元である名古屋への深い愛感じることが出来ます。1984年生まれの日比遊一監督は長年NY在住ですが、ふるさと名古屋の新しい世代の聖地として1954年に建築された名古屋のテレビ塔に注目したかったとか。あえて名古屋城など、有名な観光地をフォーカスしなかったといいます。

日比谷監督は劇中で5曲の作詞を書いているんですが、こんなにもパワフルかつ繊細な心の変化を伝える作品は未だかつてなかったと感じました。

栄のテレビ塔(MIRAI Tower)を背に、近隣大学のダンス部の女子学生たち30人をしたがえて、<女>が歌い上げる「It will All Come Around」は特に圧巻。テレビタワーの前がステージに変わったかのようにその照明や、ダンサー達の動きはなんとも幻想的です。彼女がいつか自分の夢を叶えたいという気持ちがストレートに伝わってきます。ほかにも歌いながら清掃会社のユニフォームに身を包んだ彼女は窓から見える夜の名古屋の景色をバックに映りますが、監督の名古屋愛はそんな風に随所に見ることができます。

幾度か同じ曲を歌うシーンが後にも出てきますが、その時々の心情を表すかの如く違う曲のように聞こえるのも彼女の表現力ならではでしょう。

この作品の主役はズバリ「音楽」!

その他にも二人のデュエットに加え母親役の高岡早紀も少しだけ歌を披露する映画のタイトル「Beginning」もミュージカル好きには堪らないオススメの色彩豊かなシーンもあります。

母親と自分との間で葛藤を抱えながらも歌うことへ心が張り裂けそうになりながらもその想いを抑えることが出来ない「I Can't Fight These Feelings Anymore」、聞いているとこちらまで切なくなってしまいます。

湧き出てくる歌うことへの気持ちを表現した「I hear a voice」も魅力的な楽曲ですが、やはり最後に流れた<男>と<女>が今池のライブハウスで「You Showed me the Way」はクライマックス。これだけ繊細な心を台詞ではなくダイナミックに観客を魅了する音楽の歌詞とメロディで表現が出来ることに驚きを感じずにはいられませんでした。

この作品の主役は、ズバリ「音楽」!最後までスクリーンからはみ出る放つ光、その歌声に酔いしれて観てくださいね。

サントラを是非手にしたい作品です。

映画『はじまりの日』10月11日(金) TOHOシネマズ日比谷他 全国ロードショー
【公式サイト】https://hajimarinohi.jp/

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