カインドフルな映画たち:『ホワイトバード はじまりのワンダー』

柴田あずさがお届けするカインドフルなムービーセレクション。今回ご紹介するのは『ホワイトバード はじまりのワンダー』。2017年に公開された大ヒット作品『ワンダー 君は太陽』から6年。実はこの映画には小説「ワンダー」の作者R .J.パラシオが書き上げた、もう一つの物語りがあったんです。

作品を手がけた監督は『007/慰めの報酬』や『ワールド・ウォーZ』、『ネヴァーランド』など幅広い作品を手がけてきたマーク・フォースター。彼は「今の時代だからこそこの映画を観てほしい」とコメントしています。さて、どんな内容なのでしょうか?

2024年を締めくくるのは、人を思いやる勇気と、大きな愛!

主人公は「ワンダー」でオギーをいじめていた少年、ジュリアン(ブライス・カイザー)。その「問題児」ジュリアンを変えたおばぁちゃん(ヘレン・ミレン)との心に響くヒューマンドラマが描かれます。2024年を締めくくるに相応しい、人を思いやる勇気、大きな愛を学ぶことができる作品となっています。

いじめで退学処分を受けたジュリアンは転校した先で、自分の居場所を失っていました。そんな時、画家として活躍をしている祖母のサラがパリからやって来て、少女時代の思い出を語り出します。孫が学校で起こした問題の一部始終を知るサラ。前作でオギーをいじめた過去を振り返り、「あの時、学んだのは人に深入りしないこと。意地悪も優しくもしない。ただ普通に接するだけ」と語る孫のジュリアンに接し、自らの忘れたい過去の話をしようと決意をするのです。

祖母のサラの話はフランスがナチス占領下となった1942年に遡ります。当時彼女はフランスの片田舎で外科医の父親・母親(ジリアン・アンダーソン)と暮らしていました。町には「ユダヤ人お断り」の札が店頭に掲げられるなどナチスの脅威が日常の生活に入り込んできた時代です。


学校にもユダヤ人一斉検挙の手が入り、教師たちが生徒を逃すもののユダヤ人たちは次々捉えられていきます。なんとか隠れていたサラに手を差し伸べたのはジュリアンという少年。偶然にも孫のジュリアンと同じ名前の男の子でした。彼はポリオの後遺症のために脚が不自由であったため トルゥート(カニ)と呼ばれ、いじめを受けていた子でした。

両親と離れ離れになったサラは、彼の家の納屋に身を寄せます。家の2階にはナチスの密告者と噂される夫婦がいたため、隠れるように住む必要がありました。さらにずっと好意を寄せていたジュリアン。彼の父親・母親は彼女のことを知りませんでしたが、彼らもまた自分の娘を扱うように好意的に彼女に接し、離れてしまった両親を探すことに協力もするのです。

このお話はノンフィクションですが、自分たちの命を危険にさらしながらも、ユダヤ人をかくまった家族の愛ある行動も描いています。もしかすると「アンネの日記」を思いだされる方もいるかもしれませんね。映画の世界では描ききれないほど、実際には多くのユダヤ人の方が大変な思いをされたのではと思うと、胸が痛みます。

緊迫の中にある静寂美

そんな緊迫した状況の中で描かれる静寂美は目を見張るものがあります。たとえば、ジュリアンの母親がサラの髪の毛を愛おしそうにとかすシーン。遮られたカーテンから入ってくる光の中での二人の様子に、静かな美しさを感じました。

またサラとジュリアンが納屋の古い車のハンドルを握り、今まで行ったことのないエッフェル塔、New Yorkなどへの旅を空想をするシーン。これはVFX用のグリーンステージに車を移動させ二人を撮影し、アンティークの映像写機と車のバッテリーは他のチームが調達したそうです。厳しい現実の世界から一時的に離れ、二人が見せる心からの笑顔は、記憶に残るような息をのむ美しさを感じました。

そしてそんな二人の元に、戦争の終わりが近いというニュースが流れてきます。果たして、このその後の運命は・・・

やさしさこそ、本当の強さ

この映画のキャッチフレーズは「やさしさこそ、本当の強さ」。そんなキャッチフレーズとともに、みなさんに感じて欲しいのは「希望」です「映画を観た観客に持ち帰って欲しいものは何か?」という質問に、祖母役を演じたアカデミー賞受賞女優、ヘレン・ミレンは「希望を感じて欲しい。人間というものは捨てたものではないと感じて欲しいの。同時に特定の態度や行動に潜む危険も察知してほしい。でも何よりも希望を感じて欲しいわ」と、コメントしていましたが、かく言う私も、鑑賞後にはあたたかな希望を感じることが出来ました。

どんな悲惨なことがあっても、誰かのためになんらかの愛を差し伸べることは大切です。けれどそんな愛を差し伸べた後に、私たち自身が得られるのもまた、愛や希望であり、命の輝きが灯る瞬間なのかもしれません。

この映画を観ただけではもちろん、世の中の争いが終わるわけではありませんが、それらを終わらせる気づきは得られるかもしれません。ぜひ次世代にこの心を受け継いでもらいたい作品です。

映画『ホワイトバード はじまりのワンダー』

12月6日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ他にて全国ロードショー
映画『ホワイトバード はじまりのワンダー』公式サイト

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