
柴田あずさがお届けするカインドフルなムービーセレクション。
今回ご紹介する作品は色鮮やかな映像表現でも知られるスペインのペドロ・アルモドバル監督の初めての英語長編作「ザ・ルーム・ネクスト・ドア」。昨年のベネチア国際映画祭において最高賞の金獅子賞を受賞、第82回ゴールデングローブ賞でもティルダ・スウィントンがドラマ部門の主演女優賞候補になったことで話題の素晴らしい作品です。
コンテンツ
女性同士の友情。真の「親友」とは?
皆さんにも大切な親友と呼べる人がいると思いますが、この作品は女性同士の友情を讃える一本です。互いの繋がりの深さを強め、そして共感をすることを描いています。
出演は今作がきっかけでお互いをベストフレンドと呼べるようになったと言う、62歳同士のオスカー女優、ティルダ・スウィントンとジュリアン・ムーア。
さてどんなお話なのでしょう。
若い頃同じ雑誌社で働いていた戦場ジャーナリストのマーサ(ティルダ・スウィントン)と小説家のイングリッド(ジュリアン・ムーア)。イングリッドは何十年も音信不通だったマーサが末期ガンであること耳にします。今まで逢っていなかった時間を取り戻すかのように病室で語らう二人。この二人、実はダミアン(ジョン・タトゥーロ)という同じ男性と付き合っていた時期もあったのでした。
治療を拒み自らの意志で「安楽死」を望むマーサは、その日がくるまで森の中の家に「一緒に住んでほしい」とイングリッドに頼みます。イングリッドは決断に至るまで恐怖、悲しみと、複雑な感情と向き合っていたのですが、悩みながらも最終的には、彼女の最期まで寄り添うことを決めるのでした。
「もし私の部屋のドアがある日閉まっていたら」……あなたなら、何を思う?
そしてイングリッドはマーサと共に、森の中の小さな家で時を過ごしていきます。ある日、マーサは彼女に「もし私の部屋のドアがある日閉まっていたらもうこの世にはいないから」と告げます。そんな言葉を親友から投げかけられたら、みなさんならどんなことを思うでしょうか?
友情にも色々な形がありますが二人にとって真の友情とは何だったのでしょう?マーサにとってそれが、自分の選択した「安楽死」を受け入れてもらい、決して最期まで自分に背を向けないでほしいということ。幸せな楽しい時間は勿論、苦痛も喜びも最後までマーサに寄り添ってもらうことでした。しかし、イングリットにとってのそれは?彼女の思いの底に横たわっていたであろう「深淵さ」を考えられずにはいられません。
他の国であっても、そこはあなたの「ザ・ルーム・ネクスト・ドア」
実はここには、アルモドバル監督の世界に向けての政治的なメッセージもあるそうです。
それは世の中で現在起きている悲惨なことからも目を背けないでほしいということ。
マーサを演じたティルダ・スウィントンも「他の国であっても、そこはあなたの『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』。だから誰もが世界で起こる様々な出来事と、寄り添って行く考えを持ってほしい」ということをインタビューで答えていました。
映画のストーリーに戻りますが、監督はテーマとして「死」を扱っているものの、決して、暗いエンディングの映画と捉えて欲しくはないとコメントしています。
「死」は、いずれどんな人にも訪れるもの。そんな死を目の前に、末期ガンに苦しんでいたマーサにとっては、自分の人生の終焉を納得した上で選び、その瞬間に誰かにいてもらえるということが、この上なくベストで幸せな選択であったのだと彼は言います。
一方、イングリッドにとってはそんなマーサの考えに敬意を払い、彼女を通して「生」を改めて学んだのだと。――最期の日々を過ごす友に共感が出来る「自分」となり、寄り添いながら日々生きることの素晴らしさを学んで行く。彼女たちの心境をアルモドバル監督は、彼ならでの映像表現を用いて観る側を虜にしてくれます。
静寂な森の中にあるカラフルな色彩、雪の降るシーン、明るい光の入る家だけではなく口紅の色から洋服、インテリアの色など細部に至るまでは是非皆さんに観ていただきたい映像です。
死とは決して、完全に終わりを意味しているわけではない
そしてマーサには長年、母と娘という関係を築き上げれなかったミシェルという娘がいるのですが、イングリッドは彼女の娘と初めて会い話をした時、まだそこにマーサがいることを感じとります。(監督はインタビューでは宗教とは関係なく”Reincarnation”という言葉を使っています。)その後もイングリッドは心の中にいるマーサに手紙を書き続けるのでした。
この映画は「死」というものが決して完全に終わりではないことを教えてくれるの作品のように思います。人間は一人ではない……そんなことも切実に感じさせてくれる一本です。
また、50代になっても、60代になっても大切なベストフレンドが出来ることを教えてくれる、鑑賞後にとても心が暖かくなる幸せな作品でした。お勧めです。
『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』/1 月 31 日(金)公開
【配給】ワーナー・ブラザース映画
©2024 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.
©El Deseo. Photo by Iglesias Más.














